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東京高等裁判所 平成9年(ネ)4920号 判決 1998年2月25日

控訴人(被告) Y

訴訟代理人弁護士 平松和也

同 稲田寛

同 鈴木久彰

被控訴人(原告) 株式会社伊勢丹ファイナンス

代表者代表取締役 A

訴訟代理人弁護士 畠山保雄

同 武田仁

同 中野明安

同 井上能裕

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決五頁一〇行目の「旨の」の次に「破産宣言及び」を加え、一一頁六行目の「免責の裁判がなされたために」を「この請求権については免責の効力が及ばないので、」と改め、次のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における補充主張――権利濫用について)

控訴人は、被控訴人の個別の訴訟行為が個別の法令に反していると主張するものではない。

しかし、被控訴人の実行した本件訴訟に至る一連の手続を総合すると、本訴請求は、全体として債権者平等に反し、破産法の趣旨を没却する一連の行為であって、権利の濫用に当たるものである。

すなわち、本件のような請求は、たとえ請求が認容されたとしても、回収のための経費が回収額を上回ることが通例である。にもかかわらず、被控訴人のような大資本が本件のような法的手続をとるのは、他の零細な消費者をして、当該資本については破産手続を試みても責任を免れることができないという認識を一般化させ、それにより、他の一般債権者の犠牲において、債務超過の零細な消費者から当該資本のみが優先的に支払を受けることを可能にしようと企図しているからである。

また、他方、零細な消費者は、経済的にも精神的にも疲弊しているから、大資本から法的手続を連続して講じられれば、これに応戦できなくなるのが大半であって、結果として、他から借り入れをしてでも危難を避けることを決断することとなり、再び債務超過の道につくことが想定される。

これらを総合すれば、債権者は、破産法本来の免責手続の中でその主張を尽くすべきであり、債権者が破産法三六六条ノ一二ただし書二号を用いて債務者を法的に追及することができるのは、当該債務者を免責することが法的正義に反する特段に悪質な破産者に対する関係に限定されるべきである。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、原審における当事者双方の主張立証に加え、当審における控訴人の補充主張を考慮しても、被控訴人の本訴請求は、理由があるからこれを認容すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり、原判決を補正し、控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第三 判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決一六頁二行目の「一一日」を「一七日」と改め、一七頁三行目の「頃」を削り、四行目の「三日」を「四日」と、二二頁六行目の「と協議し」を「の督促に対し」と、七行目の「九月」を「八月」と、八行目の「二回」を「九月二日及び一〇月二日に各二万円ずつ」と、それぞれ改め、二三頁四行目の「代金」の次に「等」を加える。

2  原判決二四頁五行目の「命令の」を「命令に係る立替金」と改める。

3  原判決二五頁九、一〇行目の「できなかった」を「できず、同月二八日には、カードを回収された」と、二六頁四行目の「一一日付で」を「一七日に」と、二七頁七行目の「不可能であり、」を「著しく困難であると認識しており、」と、八行目の「というべきである。」を「ものと推認することができる。」と、九行目の「右によると、」を「右に加えて、本件の各飲食が短期間に多数回集中しており、かつ、各回、最低でも五〇〇〇円を超える(多額のものは一万二〇〇〇円を超えている。)金額の飲食であることを考えると、」と、それぞれ改める。

4  原判決二八頁九行目の「旨」の次に「被告が被告訴訟代理人弁護士に述べていたと」を加え、二九頁九、一〇行目の「できないであろうことを当然予測」を「著しく困難であると認識」と改め、三〇頁一行目の「飲食時に」の次に「相応の現金を」を加え、同行の「金員は」を「としても、その金銭は」と改め、四行目の「財布中に」の次に「相応の」を加え、五行目の「前記認定の」を削り、同行の「認識」の次に「に関する前示の判断」を加える。

5  原判決三〇頁六行目の「被告自身」から九行目の「認識していた」までを「本件飲食代金の支払意思も能力もないのに、原告加盟店において、伊勢丹カードを利用して飲食した」と改め、一一行目の「(弁済期に」から三一頁二行目末尾までを削る。

6  原判決三一頁一〇行目の「、特別抗告」を「等」と改める。

二  当審における控訴人の補充主張――権利濫用――について

確かに、本件においては、被控訴人の本訴請求が認容されても、被控訴人がそれによって回収することができる債権額は僅か九万三〇七九円と年五分の割合による遅延損害金に過ぎないのであるから、訴訟代理人弁護士に対し支払うべき報酬額等を含む、右債権の回収に要する直接的、間接的な費用の額をまかなうことは到底できないものと窺われるところであり、したがって、本件のみに限局して考察すれば、被控訴人の本訴の提起、追行について、その経済的合理性を見出すことは困難ということができよう。

しかしながら、そうであるからといって、直ちに、被控訴人において、控訴人が主張するように、他の一般債権者の犠牲において、債務超過の零細な一般の消費者から被控訴人のみが優先的に支払を受けることを可能にすることを企図し、本訴を提起したものと推認することができないことは明らかである。また、債権者が破産法三六六条ノ一二ただし書二号を用いて債務者を法的に追及することができるのは、当該債務者を免責することが法的正義に反する特段に悪質な破産者に対する関係に限定されるべきである、とする控訴人の主張も、独自の見解というほかはなく、これを採用することはできない。

本件においては、前示のとおり、控訴人は、代金の支払意思も能力もないのに、伊勢丹カードを利用して、決して少額とはいえない額の飲食を頻繁に繰り返して行っているのであって、客観的に、本訴請求債権が免責の効力が及ばない請求権である以上、被控訴人が本訴請求債権の回収に向けて講じた一連の法的措置を全体的、総合的に考察するとしても、本訴請求が、債権者平等の理念に反し、破産法の趣旨を没却する行為であると認めることはできないというほかはない。

控訴人の権利濫用の主張は、理由がない。

第四  右のとおりであるから、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 川勝隆之)

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